第1章:不動産投資家が民泊で失敗する理由

賃貸不動産投資は、もうかなりルールが出回っているゲームです。利回りの相場観も、良い物件の見分け方も、情報はすでに世の中に行き渡っていて、参加者の誰もがおおよそ同じ判断基準でプレイしています。

しかし、民泊・旅館業は勝手が違います。同じ立地、同じ建物であっても、値札にまったく別の数字がついていることがある。「なぜこの物件はこんなに高いんだ」「なぜこっちはこんなに安いんだ」——その理由を説明できる人は、実はそう多くありません。理由は単純で、多くの人がこのゲームのルールを知らないまま参加しているからです。答えは、許認可という見えにくい要素と、運営という日々の実務にあります。ここを知らずに参入すると、思わぬ部分で足をすくわれます。

賃貸というゲームなら話は単純です。良い立地の物件を適正価格で仕入れれば、あとは入居者がついて家賃という収益が自動的に積み上がっていきます。オーナーが日々何かを判断する場面は、ほとんどありません。

ところが民泊・旅館業は、同じ建物でも、状態によって収益構造がまったく違う3段階に分かれます。

【物件の状態と収益構造の違い】

たとえば民泊・旅館業の許可をすでに取得済みの物件は、いわば「準備が整った状態」で参入できます。物件価格が相対的に高い傾向にあるため、利回りは低めに出ますが、そのぶんリスクは小さく、契約したその日から運用を開始できる。一方、まだ許認可を取得していない物件は、価格こそ安く見えても、消防設備の設置工事、保健所への申請、許可や届出の受領という工程を、購入後に自分の手で進めなければなりません。この間、収益はゼロのまま、時間とコストだけが積み上がっていきます。

賃貸なら「契約すればすぐに事業が始まる」。民泊は「契約してから、ようやく事業のスタートラインに立つ」。この順序の違いを知っているかどうかで、同じ物件を見たときの評価はまったく変わってきます。

【賃貸不動産投資と民泊・旅館業投資の違い】

つまり、民泊・旅館業物件を買うということは、土地と建物だけを買っているのではありません。許認可を取得済みかどうかまで含めて、あなたは物件の価値を買っています。ここを理解しないまま、賃貸物件を選ぶ感覚で「良い物件を安く買えば勝てる」と考えて参入すると、「良い物件を買ったのに稼働しない」「思ったより初期費用がかさんだ」といった事態に直面します。その原因の大半は、物件そのものではなく、許認可や運営という見えにくい要素を見落としていたことにあります。


この記事は、いわばこのゲームの説明書です。「物件を買う」という発想から、「許認可・運営までを含めて設計する」という発想への転換を、最初の土台として整理していきます。

次章では、その許認可の中身、つまり民泊という事業を成立させているルールそのものを、もう一段詳しく見ていきましょう。

◀第1部の目次に戻る