2025年の訪日外国人数は4,268万人。前年から15.8%増加し、過去最高を更新しました。統計を取り始めて以来、初めて4,000万人を突破した年です。ここだけ見れば「絶好調」に見えます。
しかし2026年に入ってからの数字は、少し様子が違います。年間を通じて伸び続けていたわけではなく、月によっては前年を下回っているのです。
【訪日観光客数の前年同月比(2026年1月-2026年5月)】

特に4月・5月は2か月連続の前年割れで、こうした動きは2022年以来ほとんど見られなかったものです。
この鈍化の主な原因は、中国からの訪日客の急減です。政治的な緊張を背景に、中国からの訪日客数は月によって40〜60%減という水準まで落ち込んでいます。一方で、韓国・台湾・米国・東南アジアなどの市場は、多くの月でむしろ単月過去最高を更新し続けています。全体の合計だけを見ていると、この内訳は見えてきません。つまり「訪日需要そのものが冷え込んでいる」のではなく、「これまで大きな比重を占めていた中国一国の急減が、全体の数字を大きく揺らしている」というのが実態に近いところです。裏を返せば、これだけ多くの国が同時に過去最高を更新しているということは、訪日市場が特定の一国に依存する体質から、多国籍化した体質へと移行している途中だとも言えます。中国の急減が全体に響くのは、まだ過去の依存度の高さが残っているからであり、この多国籍化がさらに進めば、一国の変動が全体を揺らす場面は今後小さくなっていくはずです。
ここから得られる教訓は、単純です。訪日客数という一つの大きな数字だけを見て「伸びている」「減っている」と一喜一憂しても、投資判断にはほとんど役立ちません。合計点だけでなく、どのプレイヤー(市場)が、どの地域が動いているのかまで分解して初めて、意味のある情報になります。これは、単一の指標だけで判断してはいけないという、このコースで繰り返し扱う考え方の、最も分かりやすい実例でもあります。今後、あなたが訪日客数のニュースを目にしたときは、見出しの前年比だけでなく、「どの国の増減が効いているか」「地方と都市どちらの数字か」まで確認する癖をつけてください。
そしてもう一つ、数字以上に重要な変化があります。行き先の変化です。外国人延べ宿泊者数は2025年に過去最高となりましたが、地方部の伸び率(前年比19.1%増)は都市部を上回りました。地方の宿泊シェアは直近で3割超まで拡大しています。訪日客はもはや東京・大阪・京都だけを見ていません。
つまり「観光客数は伸びている」という単純な話ではなく、「全体としての勢いは以前ほどではないが、訪日客の顔ぶれは多国籍化に向かっており、行き先も地方へと広がっている」というのが、今の訪日市場の正確な実態です。この需要の変化が、実際の宿泊業界の収益にどう跳ね返っているのかを、次章で見ていきます。



