ここまで、民泊・旅館業で戦うためには、「資金」「行動量」「知識」の3つが重要だとお伝えしてきました。
ここからは少し趣向を変えて、実際に宿泊施設を取得した事例をもとに考えていきます。物件を特定できる情報は伏せますが、地方の観光地にある宿泊施設を取得し、現在も運営している事例です。
資金力がなくても、行動量は増やせる
この物件に出会うまで、日本全国でかなりの数の物件を探していました。
一般的な不動産ポータルはもちろん、宿泊施設に特化した情報サイト、地域の不動産会社のサイト、さらにはジモティーのようなサイトまで、幅広く見ていました。エリアも最初から一つに限定していたわけではありません。「この県で買う」と決めるのではなく、民泊・旅館業として成立する物件があるなら、全国を見る。そんな探し方です。
さらに、見ていたのは「売物件」として掲載されている情報だけではありません。現役の宿泊施設オーナーが書いているブログや、小規模な宿泊事業者向けの媒体まで見て、運営継続への迷いや、将来的な売却・事業承継をほのめかすような記述があれば連絡してみる。まだ正式に売りに出されていなくても、条件次第では売却を考えるオーナーはいます。
実際、最終的に購入につながった物件も、一般的な不動産ポータルで見つけたものではありません。しかも、そのきっかけになった情報サイトは現在すでに閉鎖されています。そのタイミングでそこまで情報を追っていなければ、そもそも物件の存在を知ることすらなかった可能性があります。
ここでまず伝えたいのは、良い物件を見つけるための行動量とは、現地へ何十回も足を運ぶことだけではないということです。
物件情報を見る。毎日のように新着を確認する。普通なら見ない媒体まで見る。気になる情報があれば問い合わせる。オンラインで話を聞く。数字をもらう。周辺を調べる。必要になった段階で現地へ行く。これらもすべて行動量です。
この案件でも、現地へ行く前にオンラインで2度打ち合わせをし、運営状況や売上を確認したうえで、現地確認は1回だけ行っています。
「行動量が大事」というと、とにかく足を使うことのように聞こえるかもしれません。しかし、本当に重要なのは、必要な判断材料が揃うまで手を止めないことだと思います。

すでに年間約600万円を売り上げていて、まだ改善余地が残っていた
この物件が面白かった理由の一つが、すでに宿泊施設として運営され、年間約600万円の売上実績があったことでした。
民泊・旅館業では通常、「一泊3万円取れるだろう」「稼働率60%だろう」といった仮説を積み重ねて収支を組みます。しかし未来の数字に絶対はありません。それに対してこの物件には、すでにお客様がお金を払い、宿泊したという過去の実績がありました。
とはいえ、「600万円売れている。だから買おう」ではありません。むしろここから調査が始まります。確認したのは、過去の売上・予約実績、許認可や法規制、周辺宿泊施設の価格や稼働状況の3つ。この売上はなぜ生まれているのか、再現できるのか、今後も合法的に営業できるのか。一つずつ潰していきました。
そして購入判断で一番重要だったのが、この600万円を「完成形」ではなく「伸びしろのある数字」として見たことです。設備・内装・運営形態、いずれにも改善余地が残っていました。
同じ600万円でも、すでに洗練され尽くした施設が出す600万円と、伸びしろを残したまま出ている600万円とでは意味が違います。前者からさらに伸ばすのは簡単ではありませんが、後者にはまだ経営者が手を入れられる部分が残っている。そこに価値がありました。
「良い物件」と「自分なら良くできる物件」は違う
これは、物件を見るときに非常に重要な考え方だと思っています。
誰が見ても完成されている「良い物件」は、その価値が誰にでも分かる分、多くの場合、価格も高くなります。一方で、今の状態だけを見るとそれほど魅力的に見えないものの、自分の持っている知識や経験を使えば改善できる。そういう物件では、まだ価値が価格に織り込まれていない可能性があります。
つまり物件選びでは、「良い物件か」だけではなく、「自分が価値を足せる物件か」という視点も重要です。
もちろん、この判断をするためには知識が必要です。その知識は突然身につくものではありません。全国の物件を見る。売上を計算する。周辺の宿を調べる。法規を確認する。「これは違う」と何度も判断する。そうした積み重ねがあるからこそ、一つの物件を見たときに、「ここは変えられる」と判断できるようになります。
行動量は、単純に良い物件に出会う確率を上げるだけではありません。行動を重ねるほど、自分の中に比較対象が蓄積されていく。そして、その比較対象が、やがて「知識」になります。
次章では、この物件を購入するとき、何を見て「買える」と判断したのか。より具体的に、知識の使い方についてお話しします。


