第3章:制度が収益に効いてくる場所

前章で挙げたルールは、単なる手続きの話ではありません。ここを越えたら終わり、ではなく、開業してからもずっとあなたの財布に効いてきます。効いてくる場所は大きく2つ。ひとつは売上の天井、もうひとつは経費の底上げです。

まず売上の天井を決めるのが、住宅宿泊事業(民泊新法)における「年間180日ルール」です。物件を1年間フル稼働させることができないという前提で収支を組む必要があり、この上限を知らずに事業計画を立てると、後から収益予測が大きく崩れます。どれだけ稼働率や単価を上げても、この天井を超えて売上を積むことはできません。一方、旅館業であればこの日数上限はありませんが、前章で見た通り、その代わりに施設基準という別のハードルを越える必要があります。天井を取るか、初期投資を取るか。この点は表裏の関係になっています。

経費側にも見えにくい負担が積み重なっています。宿泊者の本人確認や名簿の管理、苦情や緊急時への対応体制の整備といった運営上の負担は、住宅宿泊事業でも旅館業でも、それぞれの法律のもとで形は違えど共通して求められます。厄介なのは、その具体的な水準が行政区によって変わることです。管理者の常駐を求める自治体もあれば、駆け付け対応で足りるとする自治体もある。常駐が必要なエリアでは人件費が固定でかかり続けますし、駆け付けで済むエリアでも、物件から管理拠点までの距離が遠ければ委託費用は上がります。同じ制度、同じ物件タイプでも、住所が変われば経費の水準そのものが変わってくる。ここは意外と見落とされがちなポイントです。

この差は、想像以上に極端です。たとえば京都市では、住宅宿泊事業について、住居専用地域での営業が1月15日から3月15日までの60日間に限定され、年末年始・GW・お盆といった繁忙期はそもそも営業禁止。さらに管理者は10分以内に駆け付けられる体制を敷くことまで義務付けられています。一方、旅館業(許可を取得した簡易宿所やホテル・旅館)はこうした期間制限の対象外で、通常通り年間を通じて営業できます。同じ「京都で宿泊事業をやる」でも、どちらの制度を選ぶかで規制の重さがまったく変わってくるのです。京都市のように、すでに観光地として名の通ったエリアでは、行政としても「今さら住宅宿泊事業に来てほしいわけではない」というのが本音であり、規制はその意思表示でもあります。

一方で、宿泊施設の不足に悩む地方の自治体は、まったく逆の姿勢を取ります。空き家バンクへの登録支援に加えて、リノベーション費用の補助、Wi-Fiや防犯カメラといった設備導入への助成金を用意しているところも少なくありません。補助率が高く、自己負担を大きく抑えられるケースもあります。

【民泊・旅館業に関して規制が厳しいエリアと誘致に積極的なエリアの主な違い】

観光需要がすでに顕在化し尽くしたエリアほど行政は厳しく、これから需要を育てたいエリアほど行政は補助金まで用意して味方になってくれる。これも一つの見極めどころです。行政を敵に回すか、味方につけるか。これ自体が立派な戦略になるのです。

つまり民泊投資では、「良い物件を見つけた」だけでは不十分です。「その物件でこのルールをクリアできるか」、そして「そのルールが自分の収支にどう効いてくるか」まで含めて、初めて物件選びが完結します。次章では、こうしたルールのもとで、市場が今どう動いているのかを見ていきます。

◀第1部の目次に戻る