第17章|売上600万円より、「なぜ600万円なのか」を見る

知識は、数字の裏側を見るために使う

物件には、販売価格、想定売上、想定利回り、稼働率、宿泊単価など、いろいろな数字が書かれています。ただ、こうしたパーセンテージの数字は、率が上がるほど良く見えるぶん、実感が湧きにくいところがあります。

そこでこの案件では、「何年でこの投資を回収できるか」という年数に置き換えて考えていました。

この物件の年間売上は約600万円、年間利益は約300万円。当初の売却価格は1,200万円でしたから、年間利益300万円に対して1,200万円、単純計算では約4年で回収できる水準でした。実際には取得諸費用や改修費もかかるため、最終的な回収期間はこれより延びますが、現状の運営を続けるだけで一定の回収が見込める、というのはかなり強い数字です。

売上が高ければいいわけではない

例えば年間1,000万円売れる施設と、年間600万円の施設があったとします。数字だけなら前者が魅力的に見えます。しかし、1,000万円売るために5,000万円必要なのか。600万円の施設を1,000万円台で取得できるのか。取得後にどれくらい追加投資が必要で、利益はいくら残るのか。ここまで見なければ、投資として優れているかは分かりません。重要なのは売上の大きさそのものではなく、投じた資金に対してどれだけキャッシュを生み出せるかです。

1,200万円は、「決まった価格」ではなかった

そしてもう一つ重要なのが、価格交渉です。当初1,200万円で売り出されていましたが、オーナーと話を重ね、最終的には900万円で取得しました。年間300万円の利益がそのまま続くと仮定すれば、300万円÷900万円で約33%、物件価格だけで見れば約3年で回収できる計算になります。これも諸費用や改修費を含めた最終利回りではありませんが、1,200万円と900万円とでは、その後の投資余力も回収期間も大きく変わります。

ここで重要なのは、最初に提示された価格を、動かせない条件として見なかったことです。「この価格なら投資として成立する」というラインを自分の中に持ち、そこに近づける余地があるなら交渉する。良い物件を見つけるだけでなく、買える条件を作ることも行動量の一つです。

過去の数字を「未来の保証」にしてはいけない

一方で、年間約600万円という実績があるからといって、翌年も必ず600万円売れるわけではありません。民泊・旅館業の売上は、観光需要、競合施設、OTA上での評価、価格設定、施設の状態、運営者、旅行トレンドなど、さまざまな要素で変わります。だから「600万円売れていた」で終わらせず、周辺ではどの程度の宿泊料金が取られているか、既存施設の売上は施設の力か当時の特殊要因かまで見ます。ここで、15章までのマーケット分析が生きてきます。一つの施設の数字だけを見ない。市場の中に、その施設を置いて考える。この視点が重要です。

許認可は「後で考えるもの」ではない

どれだけ収支が良くても、合法的に営業を継続できなければ意味がありません。物件探しをしていると、利回りが高い、価格が安い、立地が良い、という数字の魅力が先行し、「ところで旅館業ができるのだろうか」を後回しにしがちです。順番が逆です。この案件でも、許認可・法規制の確認は購入判断の重要な項目でした。事業性と適法性の両方が揃って、初めてその売上に価値があります。

現地で見えたのは、「変えられる場所」だった

事前にオンラインで売上・マーケット・許認可を確認したうえで、最後に現地を見に行きました。現地に行く意味は、そこで得た情報の答え合わせです。写真では良く見える。Googleマップでも悪くない。数字も合う。それでも、建物の空気感や周辺環境、お客様が到着したときにどう感じるかは、現地でなければ分かりません。

知識がなければ、「古いな」「広いな」で終わってしまうかもしれません。しかし、「ここを変えれば客単価を上げられるのではないか」「別の宿泊スタイルに変えられるのではないか」と見ることができれば、物件の現在価値ではなく改善後の価値を見ることができます。これが、知識を持つことの一つの意味です。

そして、一番大きく変えたのは「運営方法」だった

取得後、内装や設備に手を入れましたが、一番大きな変更はそこではありません。運営方法そのものを変えました。以前は複数の宿泊者が利用するドミトリー形式だった施設を、一棟貸しへ変更したのです。建物も立地も変わっていません。しかし、「誰に、どんな体験として売るか」を変えました。

一般的な不動産投資では、家賃相場から大きく外れた収入を作るのは難しいものです。しかし民泊・旅館業では、不動産を買った後の「事業の作り方」によって収益を変えられる余地が大きい。この物件には、その余地がありました。

そして、この改善を実行する段階になると、最後の武器である「資金」の使い方が重要になってきます。

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